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22年前の芸備線急行 <後編> 「終着駅」は、まさかの... [車内放送]

もう、この芸備線急行に乗ったのは22年も前。
それでも、この晩のことは、いまでもハッキリと覚えている。
そんな無茶ができたのも、<変態鉄>がそれだけ若かったということかも知れない。

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【2002年3月16日】 芸備線・白木山-狩留家

車窓は、漆黒の...夜のローカル線、明かりらしい明かりも見えずに。当時のJR西日本のキハ58系では“ありがち”だった、国鉄時代からの4人掛けボックスシートのモケットの上に、被せるタイプのバケットシートの付いた車両。2両で2〜3名の乗客、車内にはDMH17Hエンジンのあのサウンドと、右へ左へとカーブする度に、レールと車輪との摩擦音が響いて...

MDレコーダを車内2箇所に設置して、ヘッドフォンでその音を確認しながら。録音レベルは何度も確かめた。それでも、心臓はバクバクだった。



広島駅を17時半に発つ、急行「たいしゃく」号は20時前に、誰も居ない終着駅に到着する。その直前、最後の車内放送を録音した。

でも、そんな肝心の急行列車の車内での記憶は、ちょっと朧気に。22年の時間がアタマの中で<変態鉄>の記憶を“風化”させて。それでも、その後のことはハッキリと。たぶん、これからも忘れないと思う。
……  ……

今日の記事、写真が無くて文字ばかり、
そして、普段に増して説明が非常に長いことをお許しいただきたい。

当時、<変態鉄>にとってカメラ...写真というのは「補助的な記録手段」に過ぎなかった。よほど、印象に残るものでなければ、乗った列車ですら撮っていない。だから、移動に使ったバスや途中の駅の様子などは、まず、全くと言っていいほど写真は残っていない。

そして、22年前と今とでは“当たり前”が違う。初めての街でもWi-Fiを見つけさえすれば、何の情報でも引き出せる...訳では無かった。
外出先での情報収集手段と言えば、当時は「iモード」くらいだっただろうか。簡易なテキスト中心のページだけ。それでも、ケータイからインターネットの情報にアクセスできる...というのは、当時としては画期的なことだった。ちょうど、この2002年頃と言えば「ブロードバンド」などというコトバが注目された頃か、まだまだ、家のパソコンを電話線に繋いでインターネット...というのが珍しくなかった当時の話である。

夜、誰も歩いていない、田舎町の小さな駅で一人ぼっち。時刻表上では同じ町のバス停に、まもなく高速バスがやってくるはずなのだが...
それに乗れなければ、予約していたホテルにたどり着く手段は絶たれることになる。20時すぎ、駅は無人、ひっそりと静まり返った駅前通り、明かりの点いている建物も疎らだっただろうか。意を決して、駅前旅館(というか、限りなく民宿に近い感じ??)の玄関へ。

「ごめんくださぁ〜い!!」
夜になってからの突然の訪問客、気だるそうな雰囲気で、年老いた女性が玄関口に出てきたのだった。

……  ……

2002年3月16日(金)晴れ

2002年3月当時、芸備線には4往復の急行列車が設定されていた。キハ58系モノクラス2連が基本。三次〜広島間の「みよし」号が2往復と、備後落合・備後庄原〜広島間の「ちどり」「たいしゃく」の各1往復。

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【1998年6月8日】 島根県松江市学園南・松江北公園

「ちどり」は当初、C56蒸気機関車が牽引の客車準急。「ちどり」「夜行ちどり」の愛称で、広島 〜 備後落合 〜 木次 〜 松江と、芸備線・木次線を経由で結ぶ“陰陽連絡列車”だった。一方の、「たいしゃく」は、ちょうど、この区間の芸備線沿線にある「帝釈峡」が由来、もともとは、岡山 〜 新見 〜 広島と、伯備線・芸備線経由で大回りで結ぶ急行列車だったという。つまり、芸備線を全線走破する優等列車である。

ご多分に漏れず、国鉄時代から過疎化と自動車道の整備で中国地方のディーゼル急行も縮小の一途を辿り。JR化に前後して、両列車とも広島県内の芸備線区間を残して廃止され。2000年代に入ると、愛称こそ違えど、同じ車両の折返しで運転されるようになって、特に違いもなく。

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【2002年3月頃】 芸備線・白木山-狩留家

その2つの急行列車さえ、三次までに短縮されて急行「みよし」号に統合されるまで秒読み段階に入っていた。

その車内放送を録音したい...、まさに“葬式鉄”として訪れた<変態鉄>だったのである。

……  ……

広島駅を17:34発。広島時点では7割くらいの乗車率だった...と、当日のメモ。

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【1998年3月頃】 芸備線・広島駅

三次までで大半の乗客が下車、残った僅かな乗客も備後庄原、備後西城までで皆さん降りて、残ったのは2両で4名。自分と同じ<鉄>と分かる感じ。

この日の編成は

↑ 備後落合
 2 キハ58 645   自由席
 1 キハ28 3014  自由席(禁煙)

車窓は真っ暗。キハのエンジン音とカーブを通過する際にレールと車輪が擦れる音、連結器の軋み...それだけの車内。
車掌さんは終着を前に、車内を巡回してゴミを拾い集め。

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やがて、オルゴールが流れて、終着・備後落合駅到着を告げる車内放送。これまた、経験豊かな車掌さんによる好放送だった。

その中で、芸備線・東城ゆきの乗換案内があって。

備後落合駅に到着すると、すぐに車内灯を消し、そして、エンジンを停め。運転士と車掌の2人で協力して車両の点検を手早く済ませると駅舎へと消えていき。無人駅で滞泊となるみたい。翌朝7時の「たいしゃく」号で折返し乗務だろうか。

「寒いから気をつけて!!」と車掌さんが去ると、ホームには自分ともう2人。備後落合駅で降りた1人は“駅寝”だったのだろうか??
キハ120形単行の東城ゆきが到着。まさに終列車。途中、誰も乗り降りせずに終着の東城駅には20:54着。

東城駅は、この時間帯は無人だったようで...

……  ……

ここで途方に暮れた<変態鉄>。それが冒頭のくだり。

約40分後に、同じ「東城」バス停に大阪梅田からの新見経由三次ゆきという高速バスが到着する。そのバス、時刻表で見ると東城バス停でも乗降可能。
ただ、高速バスの途中のバス停というのは街なかにはないことが大半で。慌てて、「104」でバス会社の電話番号を聞いてみるも、もちろん、営業時間外。寂しく呼び出し音が流れるだけ。

困った。いや、まさに絶望的な気持ちだった。駅前には明かりの点いている建物自体、ほとんどなく。
その中の1軒、昔ながらの「駅前旅館」のようなところの玄関を開けて。

「ごめんくださ〜〜い!!」、奥から年老いた女性が出てきてくれて。

「泊まりじゃないの」、露骨に嫌そうな表情。それも仕方ない。それでも、バス停の場所を尋ねる<変態鉄>のためにお嫁さんだろうか、奥に戻って呼んできてくれて。そんな<変態鉄>のために、わざわざ親切に道路のところまで出て、道を教えていただけたのだった。

ホッとしてあるき出したのも束の間。言われた通りの場所には「東城小前」のバス停。真っ暗なバス停、ポールに掲げられた時刻表をケータイの液晶の明かりで読んでみても高速バスの案内は無く。第一、阪急と中国バスの共同運行なのにバス停は「備北交通」である。

「う〜ん、これはおかしい」

再び。

すぐ近くにあったお寿司屋さんの戸を...
親父さんが白衣姿のまま出てきてくれて。

「フレスタのところを右に入って、ポプラの近くにあるから...」と。
“フレスタ”というのは、大型スーパーのような感じ。既に夜で閉店していたが大きな看板は暗い道路沿いでも、それに慣れた目にはハッキリ確認できて。
しかも、この“フレスタ”、ちょうど東城インターチェンジの目の前。高速バス停が近くにある...と予感できる場所である。

赤い看板のコンビニが「ポプラ」、飲み物を買って店員さんに高速バス乗り場を尋ねると「この先のタクシー乗り場の向かい側にあります!!」

今度こそ!!

真っ暗な道路を歩くこと数分。漆黒の闇に浮かぶ「中国バス」の電光看板。真っ暗な敷地内には数台の路線バスが留置されており。どうやら、バスの車庫のようで。

でも、ちょっと怖かったのは、バス車庫の正面に謎の乗用車が1台。
しかも、いきなり、バタンとそのドアが開いて。体格の良い男性が近づいてくる。これは、かなりの恐怖である。この暗闇で襲われてココで命を落とすのか...、本当にそう思った瞬間だった。

恐る恐る「21時半の高速バスがココに着くはずで...」、高速バスで三次に行こうと思っていると正直に告げると...

「あぁ、阪急かぁ、それなら、ここで待っていて...」(確かに三次・新見〜大阪梅田線は当時、阪急と中国バスの共同運行)
言われた通り、21:35頃、ほぼ定刻で10数名の乗客を乗せたバスが。メモには白地に青の車体...とあるので、中国バスの担当便だったのだろうか。

三次駅近くのファミレスで夕食を済ませてホテルに戻ったはずだが、バスに乗ってからは安心したのか、あまりハッキリ覚えていない。

いまなら、ネットで何でも情報が探せる時代。でも、見知らぬ町、真っ暗闇の中でバス停を探す...、今思えば、無茶なことをしていたものだった。

……  ……

と、ほとんど写真のないブログ。まさか、あの頃、こんな話をネットで紹介するとは全く想像だにしなかった。
あの頃、カメラを向けることもなかった景色、撮っておけばよかったなぁ...と、いまになって、そう思っても...

気にもとめない位、当たり前の場面が時間とともに大事な記録になる...と、そんなことを思う今日このごろなのである。

(※)撮影時刻は写真データのものです。したがって、実際の時刻とは多少前後します。

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